2019.6.5
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国別トレンド

インド3大財閥タタ・グループが実践する持続的成長戦略

(写真=walterericsy/Shutterstock.com)
(写真=walterericsy/Shutterstock.com)
インド3大財閥のひとつ、タタ・グループの持続的な成長を支えてきたのは、グループ全体に策定・実行されたHR(人事)戦略です。

同社はグローバル企業の課題である「地理的な価値観の違い」の解決策として、独自のコアバリューやグローバルな視点に立った人材育成プログラムを採用しています。

綿貿易業者からインド最大のコングロマリットへ急成長

1868年に綿の貿易業者として設立されたタタは、従業員70万人強、市場価値1,453億ドル強(2018年3月データ)、インドで最大かつ最も多様なコングロマリット(複合企業)へと成長を遂げました。事業内容は国内だけでも、情報技術サービスからエンジニアリング、電力、不動産開発、ホテル、旅行、消費者向け製品にまでおよびます。

国外事業では英蘭系大手鉄鋼メーカーのコーラスや米ジェネラル・ケミカルズ、シンガポールのナット・スティール(2019年1月、中国HBISに売却)などを続々と買収し、化学品や鉄鋼などの戦略的産業で脚光を浴びました。

さらに自動車業界ではジャガー・ランドローバー(JLR)という象徴的な国際高級ブランドを所有しているほか、商業的には今ひとつふるわなかったものの、2008年にはタタ・モータースから超低価格小型車「ナノ」を発売しました。

日中米と異なるインドにおけるHRの重要点

しかし組織の規模が大きくなればなるほど、マネージメント構造が複雑化する傾向があるのは大企業に共通する問題点です。特にタタのようにグローバルに事業を展開している組織にとって、人事方針を統一することは容易ではありません。

タタにおいても、従業員の優先順位は国や地域によって異なります。例えばタタ・ジャパンの最優先事項が「シニア、リーダーシップ、評判」であるのに対し、米国では「職業への関心、アラインメント」、中国では「キャリア開発の機会」、英国では「尊敬」、インドでは「マネージャーの質」です。

こうした地理的な価値観の差を理解した上で、同社は次の5つのコアバリューを成長促進のための指針としています。

5つのコアバリュー

  • Integrity(誠実性)
  • Responsibility(責任感)
  • Excellence(優越)
  • Pioneering(先駆的)
  • Unity(団結)

タタは「環境と社会の原則を自社のビジネスにも適用する」という理論の元(Responsibility)、公平で透明性の高い、誠実かつ倫理的な活動を企業文化の基盤としています(Integrity)。

その一方で、最高の品質基準を達成することに情熱を注ぎ(Excellence)、革新的なソリューションの開発に向け、大胆かつ機敏に挑戦する精神を忘れることがありません(Pioneering)。

また人材やパートナーに投資し、継続的な学習の機会を提供すると同時に、信頼と相互尊重に基づいて思いやりと協調関係を築くプロセスを重視しています(Unity)。

同グループの会長であるラタン・タタ氏は、かつて「ビジネスには大きな要求が1つある。常に倫理、価値、公正、客観性のフレームワークを自分自身に課さなくてはならない」と語りました。この言葉は、タタ・グループに属する全ての従業員が共有する企業理念を反映しています。

グローバルな視点に立った育成プログラム

「高品質・低コストな労働力」という潜在力を秘めたインド市場に、多数の多国籍企業が競うように参入している近年、インドでも労働市場のグローバル化が加速しています。シンガポール・マネージメント大学のレポートによると、インドは世界最大の英語を話す労働力に加え、世界第2位の科学者とエンジニアの宝庫です。

地元の既存企業と新規参入企業間の競争が激化する中、労働市場で優位に立つ戦略の一環として、タタは新入社員の研修を重視しています。

例えば新人のエンジニアは6~12週間の研修プログラムに参加し、「文化的適応性」を含む教育やトレーニングを受けます。こうしたグローバルな視点に立った育成プログラムを受けることで、新入社員はいつ国外に配属されても思う存分に能力を発揮できる準備を整えることができるのです。

タタが考える「人材維持のポイント」

タタの持株会社タタズ・サンのグループ人事担当チーフ、サティッシュ・プラダーン氏は人的資本投資の一環として、人材を維持するポイントは「従業員の欲求を理解すること」だと述べています。

徹底したサポート体制とともに、手厚い福利厚生はあらゆる従業員の満足度を満たす重要事項です。
同社の鋼鉄部門であるタタ・スティールは、法律で義務化されるより以前から、労働者福祉制度や地域社会での取り組みに力を入れてきました。従業員の心身の健康をサポートする制度のほか、子どものいる若い従業員には、託児所施設の提供や費用の3分の1を負担する「ムスカン(Muskan)」という支援も行っています。

従業員を「組織の大切な資源」として尊重する姿勢が、タタ・グループの持続的成長戦略であることは疑う余地がありません。
 

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